導入事例

「人じゃなくていい」を客が選び始めた

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「人じゃなくていい」を客が選び始めた

飲食店のデジタル化は、これまでずっと「店側の都合」で語られてきた。人手が足りないから、コストを下げたいから、回転を上げたいから。だが2025年8月のホットペッパーグルメ外食総研の調査(7,560人)が突きつけたのは、別の事実だ。セルフオーダーの利用経験率は67.5%。2021年の26.0%から2回連続で伸び、客の方が先に「注文も会計も、人じゃなくていい」を選び始めている。導入の口実は、もう人手不足ではない。


KEY POINTS

項目内容
セルフオーダー利用経験率67.5%(2021年26.0%→2回連続増)
テーブルトップオーダー経験率77.4%(店内注文の主流に)
今後の利用意向セルフオーダー52.5%(+4.9pt)、モバイルオーダー53.2%(+1.7pt)
選ぶ理由「自分の都合の良いタイミングでオーダーできる」47.1%
需要が集中する領域「注文」「会計」。調理工程の需要は約3分の1止まり

客の手元で何が起きているか

店内注文の主流は、もう紙でも口頭でもない。デジタルが「特別」だった時代は終わっている。

ホットペッパーグルメ外食総研が2025年8月、首都圏・関西圏・東海圏の20〜69歳7,560人に聞いた調査がある。テーブルに置かれた端末で頼むテーブルトップオーダーの利用経験率は77.4%。自分のスマホで頼むセルフオーダーは67.5%。テイクアウトを事前にスマホで注文・決済するモバイルオーダーでも50.4%が経験済みだった。

数字そのものより、伸び方に目が留まる。セルフオーダーは2021年調査で26.0%だった。それが2回続けて上がり、4年で2.6倍になった。コロナ禍の非接触ニーズが押し上げた、という説明はもう当てはまらない。感染対策の話が落ち着いた今も、客は端末を選び続けている。

「人手不足だから」という説明の賞味期限

飲食DXの動機を供給側の事情だけで語ると、本質を半分見落とす。

セルフオーダーやモバイルオーダーは、長らく「人が雇えないから機械に置き換える」文脈で紹介されてきた。求人を出しても集まらない、最低賃金は上がる、だから注文と会計を自動化する——筋は通っている。実際、人手不足は飲食業の慢性課題だ。

問題は、この説明だと客が「我慢して使わされている」前提になることだ。本当にそうなら、利用意向は頭打ちになるはずだ。ところが調査の今後の利用意向は、セルフオーダーが52.5%で前回から4.9ポイント上昇。テイクアウトのモバイルオーダーも53.2%で1.7ポイント増えた。一度使った客の半数以上が「次もこれでいい」と答えている。我慢ではなく、選択だ。

使いたい理由を見ると、その質がわかる。店内で最も多かったのは「自分の都合の良いタイミングでオーダーできる」47.1%。テイクアウトでは「待ち時間によるストレスが減る」33.4%。店員を呼ぶために手を挙げて待つ、レジに並ぶ——その小さな摩擦から解放されることを、客は価値として受け取っている。人件費の節約ではなく、客の体験が動機になっている。

飲食店への影響:置き換える領域の見極め

客が「人じゃなくていい」と感じる領域と、「人がいい」と感じる領域は、はっきり分かれている。

外食総研の分析で示唆的なのは、デジタル化の需要が「注文」と「会計」に集中していた点だ。この二つは、客の側から見て「気を使わずに済むなら、人でなくてもいい」領域として認識されている。一方で調理に関わる工程への需要は約3分の1にとどまる。火を入れる、盛り付ける、料理を運んで一言添える——ここは依然として人の手が期待されている。

つまり全自動化が支持されているわけではない。客が求めているのは「省きたい摩擦は機械に、残したい接点は人に」という線引きだ。注文と会計という、店にとって最も人手を食う定型業務が、ちょうど客の「省いてほしい」とぴったり重なる。供給側のコスト削減と需要側の体験改善が、同じ一点で交わる。これが、この4年でセルフオーダーが2.6倍に伸びた本当の理由だ。

導入の現場でこの線引きを外すと、せっかくの投資が裏目に出る。注文端末を入れたのに呼び出しボタンを撤去してしまい、追加注文や相談の接点まで断ってしまう。あるいは高単価のコース業態に一律でセルフ化を持ち込み、客が期待していた接客の密度を削ってしまう。端末を置くこと自体が目的化すると、客が「人がいい」と感じていた接点まで巻き込んで削ってしまう。

誰の利便性で設計するか

この流れは、まだ全業態に行き渡ってはいない。意向と実態の差が、次の伸びしろを指している。

利用経験率が67.5%まで来たセルフオーダーでも、今後の利用意向は52.5%。経験者の全員が積極派というわけではなく、業態や場面によって「ここは人がいい」と感じる客も一定数いる。年齢が上がるほど端末操作にためらいが残るのも事実だ。一律導入で全員を満足させる段階ではない。

それでも方向は定まっている。テーブルトップオーダーの今後意向が69.1%で前回比3.3ポイント下がった一方、自分のスマホで完結するセルフオーダーとモバイルオーダーが伸びた。店が用意した端末より、客が自分の端末で、自分の時間で動くスタイルへ重心が移りつつある。注文も会計も客の手元で完結する設計が、これから標準になっていく。

飲食店が次に問うべきは「人手が足りないから何を減らすか」ではない。「客が自分でやりたい部分はどこで、人に任せたい部分はどこか」だ。デジタル化を店の都合で進めるか、客が選んだ動線に合わせて設計するかで、同じ端末でも結果は分かれる。客はすでに答えを出している。注文と会計は、自分のペースでやりたい。あとは店が、それをどう受け止めるかだ。


飲食店オーナーへの示唆

  1. 動機を需要側に置き直す:「人手不足だから」ではなく「客が注文・会計を自分のペースでやりたがっている」を出発点にすると、どこを自動化すべきかの判断がぶれない。
  2. 省く接点と残す接点を分ける:需要が集中する注文・会計はデジタルへ、調理や料理の受け渡しなど人が期待される接点は残す。全自動化は支持されていない。
  3. 客の端末を前提に設計する:店の据置端末より、客が自分のスマホで完結するセルフ/モバイルオーダーへ意向が動いている。動線をスマホ起点で考える。
  4. 業態と客層で線引きを変える:高単価業態や年配客の多い店では、一律セルフ化が体験を削るリスクがある。経験率67.5%・意向52.5%の差を、自店に当てはめて読む。

参考資料

#導入事例#セルフオーダー#飲食店DX#業務効率化#モバイルオーダー
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