飲食店倒産411件、30年で最多 — 「人件費倒産6.6倍」が映す本当の構図

2026年1〜5月の飲食店倒産は411件。1994年の調査開始以降、30年で最多を記録した。だが本当に見るべきは総数ではない。人件費高騰を直接の引き金とした倒産が20件、前年同期の6.6倍に膨らんだ点だ。倒産する店の9割が資本金1千万円未満の零細店——この数字の並びは「景気が悪いから潰れた」では説明がつかない。人を雇っ...
2026年1〜5月の飲食店倒産は411件。1994年の調査開始以降、30年で最多を記録した。だが本当に見るべきは総数ではない。人件費高騰を直接の引き金とした倒産が20件、前年同期の6.6倍に膨らんだ点だ。倒産する店の9割が資本金1千万円未満の零細店——この数字の並びは「景気が悪いから潰れた」では説明がつかない。人を雇って回す店だけが、人件費の上昇分を価格に転嫁できず先に折れている。
KEY POINTS
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 飲食店倒産(1〜5月) | 411件 — 調査開始30年で最多(前年同期比2.2%増) |
| 人件費高騰が原因 | 20件 — 前年同期の6.6倍(566.6%増) |
| 零細店の割合 | 資本金1千万円未満が373件 = 全体の90.7% |
| 居酒屋の倒産 | 98件 — 前年同期比38.0%増 |
| 地域集中 | 近畿144件 = 全国の35.0%で最多 |
東京商工リサーチが発表した数字の中身
411件という総数の伸びは2.2%。派手ではない。むしろ静かに進む数字の裏で、構成比が大きく動いている。
東京商工リサーチが2026年6月に公表した集計によると、1〜5月の飲食店倒産は411件。総数だけ見れば前年から微増にとどまる。だが内訳を開くと見え方が変わる。倒産の8割超にあたる342件(83.2%)が「販売不振」を主因とし、原因別で人件費高騰を直接挙げた件数が20件——前年同期のわずか3件から6.6倍に跳ね上がった。
業態別では居酒屋が98件で前年比38.0%増と突出する。アルコール提供を軸にした夜間業態は、コロナ後の客足が戻りきらないところに人件費と食材費の二重の上昇が重なった。地域では近畿が144件と全国の35.0%を占め、関西の集中ぶりが目立つ。
なぜ倒れる店の9割が零細店なのか
零細店が弱いのではない。零細店ほど「人件費の上昇分を価格に乗せられない」構造に縛られているからだ。
倒産した411件のうち373件、つまり90.7%が資本金1千万円未満の小規模事業者だった。直感的には「体力のない店が先に潰れた」と読みたくなる。だが本質はそこではない。問題は転嫁力の差にある。
最低賃金は2025年度も全国平均で大幅に引き上げられ、パート・アルバイトの時給はこの数年で目に見えて上がった。チェーンや中堅企業なら、メニュー価格の改定や原価管理、セントラルキッチンによる人時の圧縮で吸収できる。一方、家族経営や数席規模の個人店は値上げに踏み切れば常連が離れ、据え置けば人件費に利益を食われる。値上げによる客離れと経営維持の板挟み——東京商工リサーチが指摘するこの構図こそ、零細店だけが先に折れる理由だ。
言い換えれば、今回の倒産増は「不景気の倒産」ではない。賃金が上がる局面で、人手に頼った運営から抜け出せなかった店が選別されている。コストカットではなく、同じ売上を少ない人手で回せるかどうか。そこに生死の線が引かれている。
人件費の上昇は止まらない、という前提で読む
6.6倍という数字は一過性の異常値ではなく、これから常態化する圧力の初動と見るべきだ。
人件費倒産20件という絶対数は、411件の中ではまだ小さい。だからこそ「直接の引き金」として記録された6.6倍の伸びが意味を持つ。販売不振として計上された342件の多くも、その内実をたどれば人を雇うコストの上昇が利益を削り、わずかな客足の減少で資金繰りが詰まったケースが少なくない。人件費は表に出にくいだけで、倒産の背後で静かに効いている。
そして賃上げの流れは反転しそうにない。人口減で労働市場は売り手優位が続き、最低賃金の引き上げも政策として既定路線になっている。つまり店側にとって、人件費は「いつか下がるコスト」ではなく「上がり続ける前提条件」だ。この前提で店の回し方を組み直せたかどうかが、次の倒産統計の分かれ目になる。
この数字が飲食店オーナーに突きつけること
生き残った店が削ったのは料理人やサービスではなく、「人がいなくても回る作業」だった。
注文取り、会計、メニューの差し替え、外国人客への言語対応——これらは料理の質とは無関係な、しかし確実に人時を食う作業だ。倒産統計が映すのは、こうした非調理の人時を仕組みで肩代わりできた店だけが、賃上げ局面を生き延びているという現実に近い。
セルフオーダー端末やQRコード注文は、ホールの人時を直接削る。多言語メニューは、関西や主要観光地で増える外国人客への対応に人を張り付けずに済ませる手段になる。近畿が倒産の35%を占める一方で、その関西は訪日客の主要受け皿でもある。客は来ているのに、その客をさばく人手が足りずに利益を出せない——この矛盾を埋めるのが、人時の構造を変える投資だ。
ここで誤解してはいけない。デジタル化は「経費削減ツール」ではない。同じ人数でより多くの客を、より多くの言語で受けられるようにする「売上維持の装置」だ。30年で最多という数字は、その装置を持たない店から順に退場している過程を記録している。
