「暑さ対策=空調投資」で止まっていませんか——飲食店ドットコム271店調査が映す、ほぼ元手ゼロで動ける一手

「暑さ対策」と聞いて空調の見積もりしか浮かばないなら、この夏も去年と同じ場所で止まります。飲食店ドットコム(株式会社シンクロ・フード)が会員の飲食店経営者・運営者271人に聞いた調査では、「暑さによる客足の減少」を不安に挙げた店が70.1%。ところが昨年と比べて暑さ対策を「特に変更していない」店は59.4%を占めました...
「暑さ対策」と聞いて空調の見積もりしか浮かばないなら、この夏も去年と同じ場所で止まります。飲食店ドットコム(株式会社シンクロ・フード)が会員の飲食店経営者・運営者271人に聞いた調査では、「暑さによる客足の減少」を不安に挙げた店が70.1%。ところが昨年と比べて暑さ対策を「特に変更していない」店は59.4%を占めました。動けない最大の理由は費用です。その隣に、費用のほとんどかからない一手が放置されています——2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則の熱中症対策義務。これを「知らなかった」と答えた店が55.7%ありました。
30秒でわかる
| 項目 | 内容 | 数字の母集団 |
|---|---|---|
| 調査の中身 | 2026年夏シーズン(6〜9月)の営業に何らかの不安を挙げた店が95.6%。最多は「暑さによる客足の減少」70.1% | 「飲食店ドットコム」会員の飲食店経営者・運営者271人、2026年8月1日〜8月4日、インターネット調査。不安の項目は原文グラフに「複数回答・N=271」と明記 |
| 客足は割れている | 7月の来店客数は「ほぼ横ばい」37.6%が最多。「減少」31.4%、「増加」29.2%でほぼ拮抗 | 同じ調査の271人。前年7月との比較についての回答 |
| 揃ったのは光熱費 | 7月の光熱費は「5〜10%増加」45.0%、「10%以上増加」16.2%。原文は「合わせて61.3%が増加を見込んでいる」と記載 | 同じ調査の271人。実際の請求額の集計ではなく、経営者による予測 |
| 手は動いていない | 昨年と比べ暑さ対策を「特に変更していない」59.4%。原文は「強化した店舗は合わせて39.9%」と記載 | 同じ調査の271人 |
| 壁は費用 | 対策が「十分ではない」45.0%。その理由は「費用負担(設備投資・光熱費)」69.7%が突出 | 69.7%は「十分ではない」と答えた122店の中での比率。原文は全体換算も示し「全回答271店舗の31.4%にあたり、飲食店の約3割が費用面を理由に十分な暑さ対策を行えていない」と記載 |
| 知られていない義務 | 2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則について「知らなかった」55.7%。義務の中身は報告体制の整備・対応手順の作成・関係作業者への周知 | 認知度は同じ調査の271人。義務の内容は厚生労働省の施行通達(基発0520第6号、2025年5月20日) |
「暑さで客が減る」は、全ての店で起きているわけではない
不安の大きさと、実際に起きたことは一致していません。
7月の来店客数を前年7月と比べた回答は、「ほぼ横ばい」が37.6%で最多。「減少」31.4%、「増加」29.2%と、減った店と増えた店がほぼ同数で並びました。客足の減少に不安を挙げた店が70.1%あるのに、実際の来店客数は割れている。この落差が、今回の調査の出発点です。
自由回答には、同じ大阪府・同じカフェ業態・同じ1店舗運営から、正反対の声が並んでいます。
「気温が上がって体温に近くなってくると、店舗前の道路の通行人が激減して、誰一人として来店客が来ない日が出てきてしまうことです」
— 大阪府/カフェ/1店舗(飲食店ドットコム調査の自由回答)
「気温が高いため、家で料理をするより外食、中食の需要が増えた気がする」
— 大阪府/カフェ/1店舗(同調査の自由回答)
立地も業態も近いのに、暑さの出方は逆になり得る。「猛暑だから客が減る」を全店共通の前提に置くと、自店で何が起きているかを見誤ります。
数字の性格も先に押さえておきたい。この調査は飲食店ドットコム会員への任意回答で、回答者の69.0%が1店舗運営の事業者、店舗所在地は東京都が49.4%、首都圏で64.9%を占めます。「これらの背景が結果に影響していると推測されます」——原文自身がそう書いている。日本の飲食店全体の縮図ではなく、都市部の小規模店の声が濃く出た数字として読むのが正確です。
逆に、方向のはっきり揃った項目もありました。7月の光熱費です。前年7月と比べた予測は「5〜10%増加」45.0%、「10%以上増加」16.2%。原文の表現では「合わせて61.3%が増加を見込んでいる」。「ほぼ横ばい」33.9%、減少を見込む回答は合わせて1.8%。実際の請求額ではなく予測値ですが、増える方向で揃った点は動きません。
客足は割れ、光熱費は揃う。猛暑がまず削るのは売上ではなく、利益率だ。
6割が去年と同じままなのは、怠慢ではない
「特に変更していない」59.4%の裏には、思い浮かぶ対策が設備投資に偏っている事情があります。
昨年と比べて暑さ対策を強化したかという問いで、「特に変更していない」が59.4%。「やや強化した」33.2%、「大幅に強化した」6.6%。「強化した店舗は合わせて39.9%」と原文にあります。
では、実施されている対策は何か。来店客向けでは「空調の増強、追加投資」が41.3%で最多、「冷たいおしぼりの提供」26.9%、「冷たいメニューの追加」24.7%と続きます。ここまでは想像通り。目を引くのはその下です。「デリバリー、テイクアウトの強化」8.1%、「待ち列の日除け・ミスト・扇風機の設置」6.6%、「営業時間・ランチ時間の変更」4.8%。店の運営そのものを暑さに合わせて動かす対策が、揃って10%を下回りました。「実施しているものはない」も28.4%あります。
対策の入口が空調しかなければ、次に来る問いは必ず「その予算はあるか」になる。実際、暑さ対策を「十分に行えている」は55.0%、「十分ではない」は45.0%で、後者の122店に理由を聞くと「費用負担(設備投資・光熱費)」が69.7%と突出。122店の中の69.7%です。原文は全体に換算した数字も示しています。
これは全回答271店舗の31.4%にあたり、飲食店の約3割が費用面を理由に十分な暑さ対策を行えていない状況です
— 飲食店ドットコム(株式会社シンクロ・フード)調べ
費用の手前に、もう一つの壁も見えます。同じ122店で「効果的な対策がわからない」23.8%、「賃貸・施設の制約で設備を変更できない」18.0%、「人手不足で対応できない」13.9%。この「わからない」の中身が、自由回答に生々しく出ていました。
「夜中にエアコンを付けっぱなしで帰るのが吉なのか、消して帰るのが吉なのかが知りたい」
— 東京都/イタリア料理/1店舗(飲食店ドットコム調査の自由回答)
光熱費が増えると61.3%が見込みながら、その光熱費を左右する運用の答えは現場にない。予算の問題として語られている暑さ対策には、判断材料の問題が混ざっています。
費用のほとんどかからない義務が、55.7%に届いていない
2025年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行され、一定の暑熱環境で作業させる事業者に三つの対応が義務付けられました。
中身は、熱中症のおそれがある人を早期に発見するための報告体制の整備、重篤化を防ぐための対応手順の作成、関係作業者への周知。安衛則第612条の2として新設された条文です。厚生労働省の施行通達(基発0520第6号)は、対象となる場所をこう定義しています。
「暑熱な場所」とは、湿球黒球温度(WBGT)が28度以上又は気温が31度以上の場所をいい、必ずしも事業場内外の特定の作業場のみを指すものではなく、出張先で作業を行う場合、労働者が移動して複数の場所で作業を行う場合や、作業場所から作業場所への移動時等も含む趣旨であること
— 厚生労働省労働基準局長「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」基発0520第6号(2025年5月20日)
屋外作業の話だと読み飛ばしそうになりますが、条文が見ているのは温度と時間です。作業時間の条件は「継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業」。同じ通達は屋内作業場についても、安衛則第606条の解釈として第612条の2の作業が行われるものを含めている。夏の厨房が条件に当てはまるなら、対象に入る。
「酷暑の対策について、主に厨房の中が35度以上になるなど、スタッフの体調管理が不安である」
— 秋田県/居酒屋・ダイニングバー/4〜5店舗(飲食店ドットコム調査の自由回答)
この法改正を知っているかという問いへの回答は、「知らなかった」55.7%、「義務化されたことは知っている」39.1%、「内容まで詳しく知っている」5.2%でした。
認知の低さは、実施状況にそのまま現れています。スタッフ向けの熱中症対策で最多は「水分・塩分補給の奨励・提供」56.8%。次いで「空調・温度管理(厨房含む)」39.1%、「休憩時間の確保・指導」35.8%、「作業環境の改善」27.7%と続きます。低い側は「体調確認・早期発見体制の構築」19.6%、「熱中症対策の周知・教育」14.8%、「労働時間の短縮・シフト調整」9.6%。「実施しているものはない」も17.7%あります。
並べ替えると構図が見えます。水を配る、涼しくする、休ませる——現場の判断でその場でできることは実施率が高い。体制を作る、周知する、ルールにする——法が義務付けた側が、そのまま低い列に落ちている。義務の存在を55.7%が知らないのだから、無理もない並びではあります。
厚労省が規則を変えた背景も、通達の冒頭に書かれています。令和6年の職場における熱中症による休業4日以上の死傷災害は1,195人で調査開始以来最多、死亡災害は3年連続で30人以上、労働災害による死亡者数全体の約4%。飲食店に限った数字ではなく、全産業の数字です。
今週できることと、この夏のうちに残しておくこと
費用の壁に当たっている店ほど、先に片付くのは紙とルールの側です。
最初にやることは、測ること。通達は「暑熱な場所に該当するか否かは、原則として作業が行われる場所で湿球黒球温度又は気温を実測することにより判断する必要がある」としています。天気予報や環境省の熱中症予防情報サイトで代替できるのは「通風のよい屋外作業」の例として挙げられたケースで、厨房の話ではない。ピークタイムの厨房に温度計を一つ置く。そこが出発点になります。
次に、報告先を貼る。通達には掲示例が別添で付いていて、責任者と代理の氏名・電話番号を書き込む様式です。熱中症の疑いがある人を見つけたとき、誰に言えばいいのか。それを紙一枚で決めておくことが「報告体制の整備」の実体になります。
手順の作成も同じ構造です。作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察。通達は手順例を二つ示した上で、こう補足しています。
必ずしもこれらによらず、作業場所及び作業内容の実態を踏まえて、事業場独自の手順等を定めて差し支えないこと
— 厚生労働省労働基準局長 基発0520第6号(2025年5月20日)
判断に迷う場合は#7119等を活用して専門機関や医療機関に相談することが望ましいとも、同じ通達に書かれている。
周知の方法も現実的です。掲示、メールの送付、文書の配布のほか、「朝礼における伝達等口頭によることがあり、原則いずれでも差し支えない」。周知した結果の記録の保存までは、法令が求めていない。ただし通達は、労働基準監督署の確認に際して「事業者として適切に対応することが求められる」とも書いています。
ここまで、設備投資はゼロです。
もう一つ、この夏のうちにやっておきたいのが記録の方です。
「天候(酷暑、豪雨)の影響が、どのように来客に反映されるのかがデータ的にわからないこと」
— 東京都/そば・うどん/1店舗(飲食店ドットコム調査の自由回答)
来夏に空調へ投資するかを決めるのは、来夏の見積もりではありません。今年の気温と、客数と、光熱費を並べた記録です。それがなければ、判断はまた勘に戻ってしまう。「十分ではない」と答えた122店のうち、23.8%が挙げた「効果的な対策がわからない」。その店が、翌年も同じ場所に残ります。
営業時間・ランチ時間の変更4.8%、待ち列の日除け・ミスト・扇風機6.6%、デリバリー・テイクアウトの強化8.1%。実施率が10%を下回ったこれらは、設備を買わずに動かせるのに、まだ現場の選択肢に入りきっていない領域です。
この夏、店に残すもの
猛暑対策の本丸は、客を減らさないことではありません。利益とスタッフを守ることです。
客足への影響は店ごとに割れ、光熱費は増加の方向で揃いました。不安を挙げた店の多さに対して、実際に対策を強化した店は少ない。その差を説明する筆頭は費用で、これは本物の壁です。見積もりが通らない店に「空調を買え」と言っても、何も動きません。
費用の壁と、知識の空白は別物として扱いたい。義務化を「知らなかった」55.7%に対し、「内容まで詳しく知っている」は5.2%。この距離を詰めるのに要るのは見積もりではなく、貼り紙一枚と朝礼での一言です。回答者の69.0%が1店舗運営、64.9%が首都圏。今日の営業を自分で回している人たちの声だ。だからこそ、明日から動かせる側から手を付ける。
参考資料
- 株式会社シンクロ・フード「飲食店の約7割が『猛暑影響による客足の減少』に不安感」プレスリリース(2026年8月12日)
- 飲食店リサーチ(飲食店ドットコムの調査データ)
- 厚生労働省労働基準局長「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」基発0520第6号(令和7年5月20日、PDF)
- 厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)」
本記事中のアンケート調査の数値は、飲食店ドットコム(株式会社シンクロ・フード)調べです。法改正の内容および労働災害の統計は、厚生労働省の施行通達(基発0520第6号)によります。

