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飲食業の倒産509件、その内訳を読む——「居酒屋が最多」ではなく、近畿・関東はむしろ減った

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飲食業の倒産509件、その内訳を読む——「居酒屋が最多」ではなく、近畿・関東はむしろ減った

「飲食業の倒産が過去最多」——この見出しを、そのまま自店の危機感に翻訳しないほうがいい。東京商工リサーチが2026年7月8日に公表した数字だ。対象期間は2026年上半期(1-6月)。母集団は負債1,000万円以上の全国企業倒産で、そこから日本産業分類の「飲食業」を抜き出している。同社の本文は「上半期では、2年ぶりに増加し、1997年以降の30年間で初めて500件台に乗せた」と書く。上半期というくくり、1997年以降という集計期間、2年ぶりの増加。三つの条件が揃って初めて「初の500件台」になる。内訳に踏み込むと、見出しの印象とずれる箇所が三つ出てくる。業種別の最多は居酒屋ではない。倒れているのは大型店ではない。近畿と関東は、むしろ減っている。


KEY POINTS

表面深層母集団・単位
飲食業の倒産が509件で「過去最多」 「過去最多」は各年の上半期の比較で、集計の起点は1997年。しかも直前まで減っていた期間があり、今回は2年ぶりの増加にあたる 2026年上半期(1-6月)、全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち日本産業分類「飲食業」。前年同期比5.3%増
居酒屋倒産が初の100件超 「最多」と「初の100件超」は別の話。前者は「専門料理店」152件(前年同期比20.6%増)を指し、後者が居酒屋118件(同31.1%増)。分類の階層がそもそも違う 業種別は飲食業の業種区分、居酒屋(酒場,ビヤホール)は細分類の項目。いずれも509件の内数
「物価高」86件・「人手不足」36件が急増 伸び率(53.5%増・125.0%増)と件数の水準は切り分けたい。原因別で圧倒的なのは「販売不振」424件(構成比83.3%)だ 物価高倒産・人手不足関連倒産はいずれも509件の部分集合で、原因別の分類とは別立ての集計。足したり比率にしたりできる数字ではない
地区別の最多は近畿169件 全体は5.3%増。なのに近畿は2.3%減、次点の関東136件も4.8%減で、9地区中4地区しか増えていない 地区別、509件の内数。近畿の構成比は33.2%。九州は64件で同64.1%増
倒産企業の資本金は1千万円未満が90.5% 大型倒産が押し上げた形跡がない。負債1億円未満450件(構成比88.4%)は4年連続増、10億円以上はわずか1件(前年同期3件)、形態別は「破産」478件(構成比93.9%) 資本金別・負債額別・形態別、いずれも509件の内数

「過去最多」が何の最多なのか

東京商工リサーチの見出しは「過去最多の509件」だが、本文はその範囲を条件付きで書いている。

「2026年上半期(1-6月)の「飲食業」倒産は、509件(前年同期比5.3%増)だった。上半期では、2年ぶりに増加し、1997年以降の30年間で初めて500件台に乗せた。」

— 東京商工リサーチ『2026年上半期「飲食業」倒産 過去最多の509件』(2026年7月8日)

条件を分けて置いてみる。一つ、比較しているのは各年の上半期(1-6月)である。通年の数字ではない。二つ、集計は1997年以降の30年間で、それ以前と地続きの記録ではない。三つ、今回は2年ぶりの増加で、直前まで下がっていた期間があった。この三つを外して「史上最悪」とだけ受け取ると、数字の輪郭が変わってしまう。

見落とすと意味がもっと変わる条件が、もう一つある。母集団だ。同じ調査の注記を読む。

「※本調査は、2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、日本産業分類の「飲食業」(「食堂,レストラン」「専門料理店」「そば・うどん店」「すし店」「酒場,ビヤホール」「バー,キャバレー,ナイトクラブ」「喫茶店」「その他の飲食店」「持ち帰り飲食サービス業」「宅配飲食サービス業」)を集計、分析した。」

— 同調査 注記

負債1,000万円以上。ここが線引きだ。509件は「閉店した店の数」でも「廃業した店の数」でもない。負債がこの線に届かないまま静かに畳んだ店は、この集計に入っていない。商店街で見る「今月もまた一軒」という体感と、統計の509件がずれるとすれば、原因の一つはここにある。

業種別の最多は居酒屋ではない

見出しに載った「居酒屋倒産が初の100件超」は、最多という意味ではない。業種別で最も多いのは「専門料理店」の152件である。

原文の業種別は、「専門料理店」152件(前年同期比20.6%増)が最多。以下、細かい分類として「居酒屋(酒場,ビヤホール)」118件(同31.1%増)、「ラーメン店」36件(同44.0%増)と続く。「日本料理店」36件(同20.0%増)、「中華料理店」15件(同15.3%増)も並び、本文中では焼肉店26件(同8.3%増)に触れられている。

152件と118件は、同じ物差しの上に並んでいない。前者は業種別の区分、後者は細かい分類の項目だ。居酒屋について書かれているのは「初めて100件を超えた」であって、「最も多い」ではない。ここを取り違えると、「居酒屋という業態が最も危ない」という結論が、数字の裏付けなしに出来上がってしまう。

伸び率で並べ直すと、順序が入れ替わる。先頭に来るのはラーメン店の44.0%増で、居酒屋31.1%増、専門料理店20.6%増がこれに続く。日本料理店20.0%増、中華料理店15.3%増、焼肉店8.3%増。件数の最多と伸び率の最大は一致していない。自店の業態を探すなら、二つの列を両方見ておきたい。

倒れているのは大型店ではない

資本金別では1千万円未満が461件、構成比90.5%。負債額別でも1億円未満が450件、構成比88.4%で、4年連続の増加だった。

資本金の内訳をもう一段開く。1百万円以上5百万円未満が183件(前年同期比6.3%増)、個人企業他が182件(同1.1%増)。負債額別では10億円以上が1件(前年同期3件)にとどまった。形態別の最多は「破産」の478件(前年同期比3.0%増、構成比93.9%)。以下、民事再生法25件(同108.3%増)と続き、法的倒産は508件(同5.3%増)だった。

数字の形が語るのは、チェーンの大型倒産が全体を押し上げたのではないということだ。再建を前提とする民事再生法は倍増したとはいえ25件。9割超は破産、事業をたたむ側の選択である。

この層について、東京商工リサーチはこう書いている。

「小・零細の飲食業ほどコストアップの負担増加が大きく、来店客数の減少を懸念して値上げなどの価格転嫁が難しい実態を浮き彫りにしている。」

— 東京商工リサーチ 同調査(同社の見解)

近畿と関東は、むしろ減っている

地区別の最多は近畿の169件。ただし前年同期比では2.3%減で、次点の関東136件も4.8%減だった。

全体が5.3%増えているのに、件数の大きい二つの地区は前年同期より減っている。9地区のうち増加したのは4地区で、目に付くのが九州の64件(前年同期比64.1%増)。構成比では近畿が33.2%を占める。

「全国の飲食店が一斉に倒れている」という絵は、この列からは描けない。全国の増減と、自分の商圏の増減は、同じ方向を向いているとは限らない。509件という総量より先に、自店が立っている地区の符号を見ておきたい。

「物価高」86件と「人手不足」36件が座っている場所

原因別の最多は「販売不振」の424件で、構成比83.3%。物価高倒産86件と人手不足関連倒産36件は、この原因別分類とは別立てで発表された数字である。

原因別は販売不振424件(前年同期比4.1%増)が突出している。以下、「既往のシワ寄せ」32件(同68.4%増)、「事業上の失敗」24件(同9.0%増)と続く。リード部分に置かれているのは、これとは別の二つだ。「物価高」倒産86件(同53.5%増、前年同期の1.5倍)と、「人手不足」関連倒産36件(同125.0%増、同2.2倍)。伸び率は大きい。半面、件数の水準は販売不振と桁が一つ違う。二つの集計は系統が別なので、足して全体に占める割合を出すような読み方はできない。

では、この36件は何を数えているのか。飲食業の調査の注記に「人手不足」の定義は書かれていない。定義が載っているのは、東京商工リサーチが同じ2026年上半期を対象に7月3日に公表した、全産業向けの「人手不足」倒産調査だ。

「※本調査は、2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)」

— 東京商工リサーチ『過去最多の237件 「人件費高騰」が2.4倍増の120件、賃上げが重荷に』(2026年7月3日公表、全産業対象) 注記

求人難、従業員退職、人件費高騰の三類型。後継者難は入らない。この全産業を対象にした調査での上半期は237件で、同社は「過去最多」としており、内訳では「人件費高騰」が2.4倍増の120件だった。ただし飲食業の36件は別の調査から出た数字で、二つを並べて比率を出せるものではない。共通しているのは、どちらも負債1,000万円以上・2026年上半期という母集団の条件だけである。

それでも定義を知っておく値打ちはある。「人手不足で潰れた」と一言でまとめられている中身が、人が採れなかったのか、辞めていったのか、人件費が重くなったのかで、自店が打つ手はまるで変わるからだ。

共通項は業態でも地域でもなく、規模だった

本質は「居酒屋が潰れている」ではない。値上げを通しきれなかった規模の店が、業態を横断して落ちている——それがこの509件の形だ。

ここまでの分類を重ねると、業態でも地域でも線が引けない。特定の一業態に集まっているわけでもなければ、特定の地方に固まっているわけでもない。そろって効いていたのは、資金余力の薄さという規模の条件のほうだった。

東京商工リサーチは調査の末尾をこう結んでいる。

「資金余力が乏しい小・零細の飲食店は、コストアップで苦境の淵に立たされていて、飲食業の倒産は、引き続き高水準で推移する可能性が高い。」

— 東京商工リサーチ 同調査(同社の見通し)

問うべきは「うちの業態は危ないのか」ではない。「うちは、客数を落とさずに値上げを通せる状態にあるか」だ。同じ509件でも、そう置き換えた瞬間に自店の話になる。

509件を自店の条件に翻訳する

  1. 509件を自店の物差しに載せ替えない: この統計は負債1,000万円以上の企業倒産で、廃業・閉店の総数ではない。商店街で見る閉店と509件は別の集合だと分けたうえで、規模と地区の条件を自店に当てはめる。
  2. 値上げの可否を、勘ではなくメニュー単位で確かめる: 東京商工リサーチが挙げるのは「来店客数の減少を懸念して値上げなどの価格転嫁が難しい」構図だ。どの品目なら原価上昇を吸収でき、どの品目なら客数が落ちるのか。注文構成と原価の実数を握っていない状態では、上げる判断も据え置く判断も根拠を持てない。
  3. 「人手不足」の中身を、自店の言葉に置き換える: 東京商工リサーチの定義は求人難・従業員退職・人件費高騰の三類型(後継者難は除く)。自店で効いているのがどれなのかで、採用に投じるのか、定着に投じるのか、オペレーションを削るのかが分かれる。

参考資料

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