東北のインバウンド消費43.1%増、飲食費は34.4%——「泊まる街」の伸びに、飲食が追いついていない

「インバウンドが戻れば、地方の飲食店も潤う」——東北運輸局がまとめた2025年のデータは、その前提に静かに注文をつけている。東北のインバウンド旅行消費額(全目的)は1,062.85億円、前年比43.1%増。ただし費目別に開くと、宿泊費が63.9%増、買物代が44.7%増と伸びる中で、飲食費は34.4%増。総額の伸びにす...
「インバウンドが戻れば、地方の飲食店も潤う」——東北運輸局がまとめた2025年のデータは、その前提に静かに注文をつけている。東北のインバウンド旅行消費額(全目的)は1,062.85億円、前年比43.1%増。ただし費目別に開くと、宿泊費が63.9%増、買物代が44.7%増と伸びる中で、飲食費は34.4%増。総額の伸びにすら届いていない。主要な費目で飲食を下回るのは、団体・パック参加費(14.6%増)だけである。客は増えている。増えた分だけ店の売上が増えている、とは限らない。
KEY POINTS
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 2025年 東北のインバウンド旅行消費額(全目的) | 1,062.85億円(前年742.91億円から43.1%増)。2019年は443.31億円 |
| 費目別の伸び率(2024年→2025年) | 宿泊費63.9%増/買物代44.7%増/交通費38.5%増/娯楽等サービス費36.0%増/飲食費34.4%増/団体・パック参加費14.6%増 |
| 費目別の金額(2025年) | 宿泊費404.14億円/買物代233.45億円/飲食費192.03億円/団体・パック参加費151.25億円/娯楽等サービス費55.27億円/交通費26.52億円/その他0.19億円 |
| 1人1回あたり旅行消費単価(観光・レジャー目的) | 98,321円、前年比18.9%増(2024年82,673円、2019年53,601円) |
| 外国人延べ宿泊者数 | 2,818,370人泊、前年比23.8%増(2024年2,276,110人泊、2019年1,851,700人泊) |
| 県別消費額(2025年) | 宮城475.49億円/青森193.88億円/山形147.54億円/岩手106.11億円/福島94.60億円/秋田45.22億円 |
| 集計範囲の但し書き | 消費額に「都道府県間交通費及び訪問地不明の支出」は含まれない。消費単価のほうは観光・レジャー目的に限った数字で、パッケージツアー参加費に含まれる日本国内支出や国際旅客運賃を含まない。集計範囲が違うため、指標同士を直接掛け合わせて読むことはできない |
費目で割れた伸び方
2025年の東北でいちばん伸びたのは宿代であり、飲食費の伸びは総額の伸びにすら届かなかった。
KEY POINTSの数字を、もう一度見てほしい。飲食費の34.4%増を上回った費目は四つある。宿泊費、買物代、交通費、娯楽等サービス費。総額そのものが43.1%伸びているので、飲食費はその平均を下回った側に立っている。
金額で見ると差はもっとはっきりする。宿泊費404.14億円に対し、飲食費は192.03億円。旅行者が東北で最も多く払っているのは宿代で、その宿代が最も速く伸びた。飲食費は金額でも伸び率でも、一段下の位置にとどまっている。
元データは観光庁「インバウンド消費動向調査」の都道府県別集計(参考)で、都道府県間交通費と訪問地不明の支出は含まれない。全国のインバウンド消費額とそのまま並べられる数字ではない、と読んでおきたい。
消費単価は98,321円まで上がった
客数が戻っただけではない。旅行一回あたりに使う金額も上がっている。
観光・レジャー目的で東北を訪れた旅行者の1人1回あたり旅行消費単価は98,321円、前年比18.9%増。2024年が82,673円、2019年は53,601円だった。旅行中に自分の財布から出した分の平均、と考えると近い。
泊まった延べ人数も増えている。外国人延べ宿泊者数は2,818,370人泊で、前年比23.8%増(観光庁「宿泊旅行統計調査」)。集計の範囲は単価とは別だが、人数と単価は同じ方向を指している。
それでも飲食費の伸び幅は、そこに追いついていない。以前より厚い財布を持った旅行者が、以前より多く泊まりに来ている。ここが今回一番引っかかる点だ。
なぜ飲食の伸びが鈍いのか、統計は答えを持っていない
正直に書くと、理由はこの統計からは分からない。分かるのは、差がついたという事実までである。
統計は結果を数える道具であって、原因までは語らない。ここから先は現場の感覚による仮説だと断った上で、いくつか置いておく。
東北の宿には、夕食と朝食が宿泊料金に含まれる形態が珍しくない。その場合、旅行者がその夜に街の店へ出ていく機会は最初から生まれにくい。地方では店じまいが早く、宿に着いた時点で選択肢がほとんど残っていないこともある。言語や決済の壁で、目の前まで来た店に入りそびれる旅行者もいるだろう。いずれも統計が裏づけた話ではない。
それでも置いておく価値はある。「客が来ていない」のと「客は来ているのに店に入っていない」のとでは、打つべき手がまるで違うからだ。東北の数字は、後者を疑えと言っている。
県別に見ると、東北は一つの市場ではない
「東北のインバウンド」と一括りに語ると、実態を取り逃がす。
KEY POINTSの県別金額に目を移してほしい。首位の宮城が475.49億円、二番手の青森が193.88億円。同じ東北でも、桁の感覚がそもそも違う。秋田にいたっては2024年の47.58億円から45.22億円へ下がっており、六県が同じ波に乗っているわけでもない。
「東北のインバウンド43.1%増」という見出しの意味は、自分の店がどの県にあるかで変わってくる。全体の平均を、そのまま自店の見通しに置き換えると足をすくわれる。
問うべきは「客が来ているか」ではなく「店の中で受け止めきれているか」
本質は集客の問題ではない。来ている客を店の中で受け止めきれているか、の問題だ。
人泊も単価も上がっている。範囲の違う指標だが、両方が同じことを言っている——東北に人も金も来ている。にもかかわらず、飲食費の伸びは総額の伸びに届かない。だとすれば、飲食店にとっての次の一手は「もっと呼ぶ」ではないはずだ。呼ぶ側の仕事は、すでに数字を出している。
前線はもっと手前、旅行者が滞在中に下す小さな判断の側に移っている。今夜どこで食べるか。宿の食事で済ませるか、外に出るか。外に出るとして、看板の読めないあの店に入るか、やめておくか。泊まった延べ人数は23.8%増えた。その分だけ、この判断が起きる場面も増えたと考えるのが自然だろう。判断の材料を置いていない店は、増えた場面の恩恵をそのまま受け取れない。
飲食店オーナーへの示唆
- 宿の夕食と真正面から競っていないか確かめる:一泊二食の旅行者を夜に呼び戻すのは骨が折れる。昼、チェックイン前後の時間、食後の二軒目——競合しにくい時間帯のほうが取りやすい。自店の混む時間と、宿の食事時間を重ねて眺めてみたい。
- 書いていない情報は、選択肢に入らない:多言語のメニュー、価格、アレルギーや宗教上の対応可否。旅行者は店主に質問しない。分からなければ、静かに他の店へ移動していく。
- 「泊まる地域」の探され方と「食べる店」の探され方を分けて考える:宿は旅行前に予約される。飲食店は滞在中に、その場で探される。地図アプリやAIに聞かれる場面で自店が出てくるかどうかは、宿の予約導線とはまったく別の準備が要る。
- 単価が上がった前提で値付けを見直す:観光・レジャー目的の旅行者が東北での一回の旅行に使う額は、98,321円まで上がった。安さで選ばれにいく必然性は、以前ほど大きくない。
2026年の数字がどう出るかは、まだ誰にも分からない。ただ、宿泊と飲食の間に開いたこの差が放っておいて埋まる理屈は、今のところ見当たらない。埋めにいく店と、待つ店に分かれていくだけである。
