インバウンド消費の首位が前年同期比で中国から米国へ——米国籍の客は「買物」より「食」に払っている

飲食店に効いてくるのは、順位そのものではない。2026年4-6月期の訪日外国人旅行消費額で、国籍・地域別の首位が前年同期比で中国から米国に替わった——観光庁が7月15日に公表した1次速報の話だ。米国は3,848億円、構成比15.3%、前年同期比8.5%増。前年同期に5,064億円・構成比20.2%で首位だった中国は、2...
飲食店に効いてくるのは、順位そのものではない。2026年4-6月期の訪日外国人旅行消費額で、国籍・地域別の首位が前年同期比で中国から米国に替わった——観光庁が7月15日に公表した1次速報の話だ。米国は3,848億円、構成比15.3%、前年同期比8.5%増。前年同期に5,064億円・構成比20.2%で首位だった中国は、2,592億円・同10.3%、48.8%減まで落ちている。見出しになるのはここまで。本題はその先にある。費目別の金額を米国籍の訪日客に限って開くと、飲食費804億円が買物代761億円を上回っている。全訪日外国人ベースの費目別構成比では買物代26.8%が飲食費21.7%より大きいので、これは米国籍の客に限って起きている逆転である。
KEY POINTS
| 表面 | 深層 | 母集団・単位 |
|---|---|---|
| 四半期の総額は2兆5,096億円、前年同期比0.2%増でほぼ横ばい | 横ばいの中身は総入れ替え。中国が48.8%減る一方で、米国8.5%増・台湾27.9%増が穴を埋めた | 全訪日外国人/国籍・地域別消費額の前年同期比(1次速報値) |
| 費目別の構成比は宿泊費37.0%、買物代26.8%、飲食費21.7%の順 | 金額を国籍で開くと順序が変わる。米国籍の飲食費804億円は、図表3に並ぶ国籍・地域の中で最大 | 表面=全訪日外国人ベースの構成比/深層=米国籍に限った費目別消費額 |
| 1人当たり旅行支出は24万4,457円、3.3%増 | 米国籍は37万8,547円で、うち飲食費7万9,106円が買物代7万4,823円を上回る。全国籍平均の飲食費5万3,143円とは開きがある | 一般客(クルーズ客を除く)・全目的の1人当たり |
何が発表されたか
四半期の総額はほぼ動いていない。動いたのは国籍・地域の構成のほうだった。
2026年4-6月期の訪日外国人旅行消費額は2兆5,096億円、前年同期比0.2%増(1次速報値)。国籍・地域別の上位は下表のとおり。いずれも全訪日外国人ベースの消費額である。
| 国籍・地域 | 消費額(構成比) | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 米国 | 3,848億円(15.3%) | 8.5%増 |
| 台湾 | 3,639億円(14.5%) | 27.9%増 |
| 中国 | 2,592億円(10.3%) | 48.8%減 |
| 韓国 | 2,589億円(10.3%) | 12.2%増 |
| 香港 | 1,452億円(5.8%) | 7.8%増 |
前年同期の表を横に並べると、入れ替わりの形がはっきりする。2025年4-6月期は中国が5,064億円(20.2%)で最大、米国は3,546億円(14.2%)だった。総額が横ばいで収まったのは、中国の減少分を米国と台湾の伸びが埋めたからである。
ここで線を一本引いておきたい。この資料から言えるのは前年同期からの入れ替わりまでで、「米国が初めて首位に立った」かどうかまでは確認できない。数字の届く範囲を超えて読まないほうがいい。
客数のほうも見ておく。同じ7月15日、日本政府観光局(JNTO)が発表した6月の訪日外客数は314万8,600人、前年同月比6.8%減(推計値、全訪日外客)。上半期の累計は2,108万4,800人。四半期の消費額が横ばいでも、月次の客数が減る月はある。
米国籍の客は、買物より食に払っている
費目別の金額を国籍で開くと、財布の開き方が国ごとにまるで違う。
観光庁の図表3は、国籍・地域別の費目別消費額を金額で載せている。米国籍の訪日客は宿泊費1,607億円、飲食費804億円、買物代761億円。飲食費が買物代を上回っている。
中国籍は逆の形をしている。買物代1,030億円に対し、飲食費は521億円。買物代のほうが飲食費を大きく上回る構図だ。
米国籍の飲食費804億円は、図表3に並ぶ国籍・地域の中で最も大きい。台湾760億円、韓国728億円がそれに続く(いずれも各国籍の訪日客の飲食費、2026年4-6月期の金額)。
この話を全訪日外国人ベースの構成比と混ぜないでほしい。全訪日外国人でみた費目別構成比は宿泊費37.0%、買物代26.8%、飲食費21.7%の順で、買物代のほうが飲食費より大きい。金額を国籍で開いたときに、米国籍でだけ順序がひっくり返る。
飲食店の側から見ると、これは客単価をいくら上げるかという話ではない。同じ「訪日客が来た」でも、免税カウンターに向かう客が来たのか、今夜の店を探している客が来たのかで、店が用意しておくものは別になる。
滞在が長く、1泊あたりでも食に多く払う
米国籍の食への支出が厚い理由は、滞在が長いからだけではない。
一般客(クルーズ客を除く)・全目的の1人当たりでみると、米国籍の旅行支出は37万8,547円、前年同期比4.8%増。内訳は宿泊費15万8,095円、飲食費7万9,106円、買物代7万4,823円で、ここでも飲食費が買物代を上回る。平均泊数は10.6泊。
全国籍・地域の平均は24万4,457円(3.3%増)、飲食費5万3,143円、買物代6万5,425円、平均泊数8.7泊(いずれも一般客・全目的の1人当たり)。米国籍のほうが、全国籍平均より長く滞在している。
泊数の差だけで説明がつくかというと、つかない。1人1泊当たりで見ても、全国籍平均の飲食費6,135円に対して米国籍は7,444円(一般客・全目的)。同じ米国籍の1泊当たり買物代7,041円より、飲食費のほうが高い。長く泊まり、しかも1泊ごとの食への支出も厚い、という二重構造になっている。
飲食店の言葉に置き換えると、平均10.6泊という数字は「一度きりの通過客ではない」ことを意味する。滞在中に夕食の店を選ぶ場面が、それだけ何度も訪れる客だということだ。
ついでに釘を刺しておくと、1人当たり飲食費が最も高い国籍は米国ではない。観光庁は全目的の費目別について「飲食費は英国が最も高い」と記しており、英国の1人当たり飲食費は10万6,005円(一般客・全目的)。米国籍が最大なのは総額のほうであって、1人当たりの首位ではない。
「全体平均」で自店の打ち手を決めると外れる
同じ一つの調査の中に、母集団の違う数字が並んでいる。
ここまでに出した数字は、少なくとも三つの母集団にまたがっている。国籍・地域別の消費額(全訪日外国人の金額)、費目別構成比(全訪日外国人の比率)、1人当たり旅行支出(一般客・全目的)。同じ資料に並んでいても、掛け合わせたり直接比べたりできる数字ではない。
「訪日客は買物に一番払う」と読むか、「米国籍の客は食に一番払う」と読むかで、店の打ち手は変わる。どちらも同じ資料に載っている。違うのは、どの行を見たかだけだ。
読むときの但し書きが二つ。今回の4-6月期は1次速報値であって、確定値ではない。2026年調査からメキシコ・北欧・中東が調査対象国に追加されており、2025年以前は「その他」にこれらが含まれていたため、過去との比較には留意がいる(観光庁の注記による)。
本当の意味
問うべきは「インバウンドが増えたか」ではない。「どの国の客が、どの費目に払うか」が入れ替わったこと、そちらだ。
全訪日外国人ベースの総額は前年同期比0.2%増。この一行だけで「何も起きていない」と結論した人は、内側の入れ替わりを丸ごと取り逃がしている。買物中心の客層——中国籍は買物代1,030億円に対し飲食費521億円——が縮み、食に厚い客層が伸びた。店の前を歩く人の顔ぶれが替わった、と言い換えてもいい。
免税カウンターの行列が短くなることと、夜の店の予約が埋まりやすくなること。この二つは、一枚の統計の裏と表になり得る。総額だけを眺めていると、その裏返しは見えない。
飲食店が今やるべきこと
- 自店の客層の国籍構成を、まず数える: 全国平均より、自店の予約台帳・決済データ・口コミの言語のほうが正確だ。英語圏の客が多い店と東アジアからの客が多い店とでは、この統計で見るべき行が違う。
- 長い滞在を前提に組み立てる: 米国籍の一般客は平均10.6泊、全国籍平均は8.7泊(いずれも一般客・全目的)。平均10.6泊を日本で過ごす客には、同じ店へ二度来る余地がある。一度きりの通過客を想定した設計とは、考え方が別になる。
- 「食が目的」の客が判断に使う情報を出す: 何が食べられて、いくらで、アレルギーや宗教上の制限にどこまで対応できるのか。買物のついでに入る客と、食べるために店を選ぶ客とでは、暖簾をくぐる前に見たい情報の量が違う。
